1. はじめに
介護事業所・介護施設で働いていると、「カスハラ(カスタマーハラスメント)」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
近年、カスハラの問題は深刻化しており、特に接客対応をする従業員を対象に行ったとあるアンケート調査によると、7割もの従業員がお客様からの迷惑行為を経験していることが明らかになっています。なかでも特に介護事業者においては、入居者やその家族から受けるハラスメントが散見されており、「介ハラ」「ケアハラ」と名が付いてしまうほど無視できない問題となっており、深刻化しています。
以下では、カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義や介護業界の現状、対策を怠った際のリスクについて詳しく解説します。
2. カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?
①カスハラの定義
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客からのクレーム・言動のうち,当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして,当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって,当該手段・態様により,労働者の就業環境が害されるものを指すとされています。
②カスハラの具体的事例
カスハラの具体的な内容としては、大きな怒鳴り声をあげ、侮辱的発言をするような「暴言」、従業員に危害を加えたり、予告して怖がらせる「威嚇・脅迫」、現場に行くたびに待ち伏せされたり、毎回同じ内容のクレームを5時間ほど言われたり、そのようなことが1か月続くような「執拗なクレーム」など、直接的なものもあれば、威張り、権威を示して要求を通そうとする「権威を用いた言動」、従業員に長時間クレーム対応を強いるもので業務に支障がでる「長時間拘束」、金品の要求、暴力行為、SNSでの誹謗中傷等もカスハラに含まれるとされています。
3. 介護現場でのカスハラの現状
厚生労働省が公開している「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」によると、近年、介護現場では、利用者や家族等による介護職員への身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどが少なからず発生していることが明らかとなっているようです。
具体的には、施設・事業所に勤務する職員のうち、利用者や家族等から、身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどのハラスメントを受けた経験のある職員は、サービス種別により違いはあるものの、利用者からでは4~7割、家族等からでは1~3割になっています。また、利用者からのハラスメントを受けたことのある職員は、2割~6割程度となっており、いずれのサービス種別においても、ハラスメントを受けている実態がうかがえます。
4. カスハラが生じる背景
①顧客至上主義
「お客様は神様です」といった言葉もありますが、従業員が消費者に対して過度に責任を大きく感じ、無理をして対応をしようとするあまり、実際の業務に支障をきたす事態が生じ、本来為すべきサービスレベルを落とすことにもなりかねません。
②サービスの過当競争
現在の社会では商品が均一化したことでサービスの過当競争が生じており、さらに消費者保護の観点から販売責任、製造物責任、説明責任が偏重されています。そのため、丁寧なサービス提供を受けた客が自分は偉いと勘違いしてしまうことも原因とされています。
③企業における対応の不十分さ
インターネットの普及により企業不祥事が一気に広がるため、たとえ不当な要求を受けたとしても、企業が自社のブランドを損なわないように過剰な対応をしてしまうことも原因となります。
④社会状況
個人情報の秘匿化、インターネットの普及による匿名性が高まるとともに格差社会への反発心がたかまることも原因となります。
⑤ストレス発散
ストレス発散するため、顧客としての優位性を利用し、クレームをつけること自体が目的そのようなストレスが発散される対象となることもあります。
5. カスハラ対策を怠った際のリスク
①生産性の低下・人材流出
カスハラ対策を何も講じなければ、従業員が疲弊し、退職者が相次出て、従業員のモチベーションが低下する恐れが生じます。またこれらに伴って就業環境が良くないとの悪評が生じれば、企業イメージが低下し、新規採用も困難となり、負のスパイラルに陥ってしまい、企業にも悪影響を及ぼすこととなります。人材不足の介護業界においては大きな痛手となります。
②従業員の労災リスク
職員がカスハラの対応でメンタル不調となり、これにより精神疾患に罹患して労災が認定されば、企業として労働契約上の安全配慮義務に違反したものとして、損害賠償責任を問われる可能性があります。
5.介護施設がとるべきカスハラ対策
1. カスハラを許さないことをトップに明確する
介護施設のトップは、介護現場で顧客に対応する職員に向けて、 以下の点をわかりやすいメッセージで伝える必要があります。
・悪質クレームには毅然と対応する方針であること
・顧客至上主義には例外があること
・悪質クレームに毅然と対応できた場合にプラス評価すること
・悪質クレームに対応する社内態勢を構築すること
トップが上記のようなメッセージを繰り返し伝えることで、顧客対応にあたる職員も、不当な要求をする顧客への接し方を変えることができます。
2. エスカレーションの仕組み構築
カスハラ行為に対応するためのエスカレーションの仕組みを整備することも非常に大事なことです。例えば、担当者が十分に対応(一次対応)を尽くした上で責任者に対応を移行させ、責任者が対応を引き取った上で(二次対応)、「社長を出せ」といわれても断る仕組みが効果的です。担当者に過剰なストレスがかかることを避けるほか、担当者と責任者の二次対応により、不正処理を避けることもできます。
3. 対応マニュアルの策定
自社において、顧客からの迷惑行為、不当要求に関する対応マニュアルを作り、自社内での研修などに活用することも効果的です。マニュアルを整備することで、介護現場の職員に共有され、浸透するというのも重要なポイントです。
マニュアルには例えば以下の点を記載しましょう。
・介護現場における迷惑行為、不当要求の事例
・個々の事例ごとの望ましい対応例と望ましくない対応例
・カスハラについての記録方法(メモ、録音など)
・困ったときの相談先、共有方法
・弁護士や警察、行政機関との連携の体制
4. 社内で情報共有
同一人物が別の支店にクレームを持ち込むことは少なくないので、担当者一人で抱え込ませず、他に共有させることで、ハラスメントにつながりかねいない不当要求、迷惑行為をいち早く発見することができます。また、事案の情報共有は対応技術の向上を図る統一的な判断基準の形成研修教材にも繋がります。
5. 警察・弁護士との連携
いくら顧客のクレーム内容が正当であったとしても、さすがに土下座を強要する、物を叩く・壊す、店舗に居座って怒鳴り続ける、暴行、脅迫が行われるなどの悪質なカスハラについては、脅迫罪、強要罪、威力業務妨害罪、不退去罪、暴行罪などの、刑法上の犯罪に該当する可能性があります。このような行為があった場合、介護施設としては、直ちにその場で警察に通報することが考えられます。
介護職員による真摯な対応にもかかわらず、顧客が不当な要求を繰り返す等、もはや介護施設において対応が困難であると判断された顧客に対しては、弁護士対応に切り替えることも検討する必要があります。
6. カスハラを弁護士に相談・依頼する必要性、メリット
①カスハラ対策によるメンタルヘルス対策と人材定着
このように、入居者やその家族から過大なクレーム(カスタマーハラスメント)を受けることにより、介護職員の方がメンタルヘルス不調をきたし、休職に追い込まれ、そのまま退職に至るケースが散見されています。
弁護士にカスタマーハラスメントの相談をしていただくことで、クレームに対する適切な対処が分かるだけでなく、メンタルヘルス不調を未然に防止し、精神疾患による休職・復職を繰り返す状況を防止し、人材の定着に繋げることができます。
②クレーム対応窓口
また、不当な要求や課題なクレームに対しては、弁護士が窓口になることもでき、弁護士が対応することで不当なクレームに対して適切に対処することも可能となります。
以上、介護施設においては介護職員の採用はもとより、従業員の定着が大きな経営課題になっており、それをカスタマーハラスメントにより離職が続いてしまっている状況になっています。
弁護士に相談、依頼をしていただき、カスタマーハラスメント対策を行い、メンタルヘルス不調を未然に防止し人材の定着を図り、経営者が経営に専念できる環境を整備してください。
お問い合わせはこちらをクリックしてください。
介護事業の関連記事はこちら
介護事業
問題社員への対応方法を弁護士が解説