1 病院やクリニックにおけるリスク

病院は、その規模や専門分野にかかわらず,患者に対する対応を間違ってしまうと,その後の生活に大きな影響を与えることになり,また患者が入院する場合には,その生活のほとんどを病院内で過ごすことになるため,患者本人のみならず患者の家族との間においても様々なトラブルの発生が予測されます。
トラブルを未然に防ぐことができればよいのですが,万が一,大事になってしまうと病院の社会的信頼は低下し,最悪な場合,廃業に追い込まれる可能性も否定できません。

このような事態を未然に防ぐためには、顧問弁護士を雇うことが一つの対応策となります。

顧問弁護士がいることで、患者やその家族とのトラブルだけでなく、病院内の労働トラブル各業者との取引関係についてまで幅広く対応してもらうことができ,病院としては病院本来の業務に専念することができます。

そこで、顧問弁護士を検討している病院の方々のために、顧問弁護士を雇うメリットや選び方についてご紹介します。

2 病院やクリニックに顧問弁護士を雇うメリット

(1)患者からのクレーム・トラブルについての相談・対応

病院における顧問弁護士を雇うメリットとして最初にあげられるのは,患者からのクレーム・トラブルについての相談やその対応を依頼することができるということになります。

病院スタッフが適切な対応をしていても,一定の確率で患者から理不尽なクレームが寄せられたり,トラブルが生じてしまうことは避けられません。

いわゆる「モンスターペイシェント」への対応です。

クレームの内容はさまざまで、①スタッフの患者対応に対するクレーム,②診療や治療方針,手術の内容やその結果に関するクレーム,③入院患者による病院施設への不満,外来患者の待ち時間や予約体制への不満といった病院が提供するサービスへのクレーム,④治療費の支払を巡ってのクレームなど様々です。

顧問弁護士がいない場合、病院の先生やスタッフだけでこのようなクレームに対応しなければなりません。

このような状況で懸命に対応したものの,その対応を誤ってしまった場合には、問題が複雑化し,場合によっては病院にとって不利な状況に陥ってしまう可能性があります。

このような場合にこそ顧問弁護士に早期に相談することで,モンスター患者に対し法的な視点から正しい対応が可能となり,問題が大きくなる前に解決することが可能となります。

(2)医療費未払い問題への対応

次に病院の顧問弁護士の役割としてあげられるのは、「未払医療費の回収」となります。

医療機関の中には厳しい経営状況に陥っているところもありますが,その要因の一つとなっているのが,未払医療費問題です。

高額な入院医療費や家族と疎遠な方の医療費など、さまざまな未払い問題を解決するためには、医療問題に詳しい顧問弁護士と相談することが重要です。

未払医療費問題の解決には、まず病院内で対策マニュアルが確立され,それに沿った対応をしていくことになりますが,それでも解決しない場合は、顧問弁護士から内容証明郵便を送付するなど、支払の催促をすることが可能です。

病院での医療費未払い問題は、対策を講じないまま時間が経過してしまうと、未払医療費を回収できなくなる場合もあります。

未払医療費の問題が生じてから相談する弁護士を探すとなると、対応が遅れてしまいます。そのため、事前に顧問弁護士をつけておく必要があるでしょう。

(3)従業員の労働トラブルの相談対応

また,病院の顧問弁護士の役割としてあげられるのは,「労務トラブルの相談・対応」となります。

具体的な従業員とのトラブルとしては,①未払残業代を請求された,②スタッフ間のいじめやハラスメント問題,③勤務態度不良など問題従業員への対応などが考えられます。

特にハラスメント問題では、内部調査を慎重かつ適切に実施しなければ,病院で働いてくれている被害者が病院から離れてしまう事態となってしまいます。

また労務問題が複雑化してしまうと,労働組合の介入や労働審判等の手続に発展するなどして,問題解決までにかける時間も労力も多大なものとなってしまいます。

そのため,労務トラブルこそ顧問弁護士をつけて迅速に対応してもらう必要があります。

(4)その他法律相談への対応

それ以外の顧問弁護士の役割としてあげられるのは,「その他法律相談への対応」となります。

実際,私が顧問先の病院から相談を受けてきたのは,上記のような問題以外にも,取引先業者や施設入居者と取り交わす契約書のリーガルチェックであったり,従業員の私生活上のトラブル(交通事故・離婚・相続など)に関する相談であったり,病院の経営者の事業承継に関する相談などさまざまな相談がありました。

顧問弁護士がいることで,このような問題についても初期の段階から気軽に相談することができますし,従業員の相談も対応できることから,従業員も安心して業務に臨むことができることになります。

3 病院やクリニックに最適な顧問弁護士の選び方

では,実際にどのような弁護士に顧問契約を依頼すればよいのか,弁護士の選び方について説明したいと思います。

(1)医療機関の現況を熟知している

「医療機関の顧問弁護士経験があるか」は、最も重要視しなければならない選び方のポイントです。医療機関の顧問弁護士経験があるということは、さきにご紹介したような病院内におけるさまざまな問題について,実際に解決した実績があるということです。

このように実際に業務として病院内の法律相談に関わったことのある顧問弁護士を選ぶことが重要なポイントとなります。

(2)トラブル発生時の対応スピード

病院における法律問題は、患者からのクレームなど、早急に対応しなければならない問題も数多くあります。

そのため、トラブルが発生した時には、すぐにかけつけてくれるかどうか,対応してくれるかどうかも病院の顧問弁護士を選ぶ際のポイントとなります。

顧問になったのに携帯電話の番号を教えてくれなかったり,自分が対応せずに他の弁護士に任せるような対応をとるような弁護士はお勧めできません。

(3)弁護士自身の人柄はどうか

弁護士自身の人柄がどうかという点も顧問弁護士を選ぶ際,重要なポイントとなります。

いくら顧問契約書に書かれたサービス内容やプランが良くても、横柄な態度をとったり,しっかり話を聞いてくれないなど、実際に相談しづらい場合には,そのような弁護士に依頼するのはお勧めできません。

顧問弁護士としてこれから先,長い付き合いをすることを考えた場合、「親身に相談にのってくれる。」、「わかりやすい説明をしてくれる。」、「相談しやすい。」などの弁護士の人柄をポイントして考えた方がよろしいかと思います。

(4)土曜日や日曜日も対応してくれるかどうか

病院という特性上、患者や従業員とのトラブルはいつ起こるかわかりません。夜間(午後7時以降)や弁護士事務所の休日でも迅速に対応してもらえるかどうかも重要です。

病院での問題は、差し迫った状況も頻繁に発生するため、顧問弁護士の契約をする前に、これらについても確認していただければと思います。

4 病院やクリニックに最適な顧問契約プラン

弁護士事務所によって顧問契約サービスの内容や料金設定は異なります。

相談回数が少ない企業や病院向けの月額利用料金を抑えたプランもあれば,緊急時、いつでも弁護士がメールや電話で対応してくれたり,相談時間の制限なしに,いつでもどこでも弁護士に相談できる月額顧問料が高額になるプランなどがあります。

この点は,病院のニーズに合わせた最適なサービス内容やそれに応じた顧問料について弁護士と協議して決めていただければと思います。

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